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あなたの隣のプレインズウォーカー ~第33回 テンペスト物語もリマスター~

2015/05/11 00:00 

    • 若月 繭子
    • コラム

 陽の光溢れる草原。青い空と海。不気味な怪物が潜む沼沢。熱い炎を吹き上げる火山。瑞々しい大森林。そんな豊かな自然と多彩な文化に満ちた世界の空を駆ける飛翔艦、その一癖も二癖もあるこれまた多種多様な乗組員達が織り成す冒険物語。ウェザーライト・サーガ




 こんなイントロに心躍らないわけがない!!

 どうも若月です。18年前に発売されたエキスパンションながら、多くのカードが今もトーナメントシーンで使用されている『テンペスト』、そして続く『ストロングホールド』『エクソダス』。


不毛の大地直観謙虚再活性水蓮の花びら

モックス・ダイアモンドスリヴァーの女王水晶スリヴァー罠の橋マナ漏出

裏切り者の都大変動ドルイドの誓い発展の代価魂の管理人



 今回は、マジックオンラインで『Tempest Remastered』がリリースされるのに合わせまして……というのは口実でして、以前からどうにかして詳しく紹介したかったウェザーライト・サーガ。その序章である『ウェザーライト』と『テンペスト』のお話です!! 連載タイトルのプレインズウォーカー関係ない(完全にないわけでもない)けど既に過去何度も関係ない記事あったから別にいいですよね?



1. ウェザーライト・サーガとは

 そもそも「ウェザーライト・サーガ」とは。背景ストーリーを追っているとよく聞く言葉ですが、なにせ古い話ですのでぼんやりとしか知らない、もしくはほとんど知らないという人も多いかと思います。実のところ厳密な定義が存在するというわけではないのですが、

「『ウェザーライト』~『アポカリプス』までを通して語られた、飛翔艦ウェザーライト号とその乗組員達が繰り広げる冒険物語」

といった大雑把に括られる一連の物語、でしょうか。

 『ウェザーライト』(1997年6月)~『アポカリプス』(2001年6月)とは書きましたが、その発端は『アンティキティー』(1994年3月)で語られたウルザ・ミシュラの兄弟戦争やファイレクシアとの接触にあります。また『アポカリプス』以後も続くオデッセイ・オンスロートブロックの騒動、カーンとミラーリが関わるミラディンブロック、多元宇宙各地の大破壊の爪跡を「修復」し、プレインズウォーカーの性質が変化した時のらせんブロック、果ては記憶にも新しい新ファイレクシアの勃興。全て、何かしらをウェザーライト・サーガに辿ります。マジックの背景世界の長い歴史の中で、今も大きな根幹となっている物語です。


Gate to Phyrexiaミラーリザルファーの魔道士、テフェリーファイレクシアの抹消者




 そんな大長編のタイトルにもなっている船、「ウェザーライト号」がマジックに初めて登場したのは『ミラージュ』、まずは三枚のカードのフレイバーテキストでした。


テレムコ・グリフィン紺碧のワイヴァーンテフェリーのドレイク



《テレムコ・グリフィン》フレイバーテキスト
空を飛んでいるときに好きなこと。それはウェザーライトの手すりから身を乗り出して、グリフィンたちの影が眼下の雲海に織り成す模様を眺めていること。
――― ウェザーライトの艦長、シッセイ


《紺碧のワイヴァーン》フレイバーテキスト
昔、とあるクウィリーオン・エルフを乗せていた時の話。雲ひとつ見当たらないのに、何をそんなに用心しているのかと、この男が聞いてきたの。紺碧のワイヴァーンの空色の体のことを説明してやると、男は、強い追い風を呼び出せたら倍の料金をはずもうと言い出したっけ!
――― ウェザーライトの艦長、シッセイ


《テフェリーのドレイク》フレイバーテキスト
雲の中を帆走しながら、ウェザーライトの横で流れるように空を駆けるドレイクたちに、みんなで干し果物を投げてやったわ。
――― ウェザーライトの艦長、シッセイ


 どのフレイバーも、とても爽やかだと思いませんか。「ウェザーライト」とは何か、という具体的な説明こそないものの「空を飛ぶ船」なのだろうというイメージはできると思います。『ミラージュ』の舞台である熱帯のジャムーラ大陸、その青い空を軽やかに飛ぶ船。そんな想像をするだけで心が躍ります。

 実際の姿をアートで見ることができたのは『ウェザーライト』に入ってからでした。



純白のドラゴン臆病ドレイク

《臆病ドレイク》(右)はかわいい。すごくかわいい。


 「ファンタジー世界の飛空船」をそのままイメージさせる、翼のついた船。そしてこの『ウェザーライト』(エキスパンション)から、ウェザーライト号の物語が本格的に始まります。(まぎらわしくてごめんなさい)

 ちなみに、何故ミラージュブロック第三エキスパンションという中途半端な所から始まったのかといいますと、このミラージュブロックから、今も知られる「3セット×2ブロック」からなるスタンダードのシステムが確立したため(とはいえ2015年秋から変わるのですが)、『ミラージュ』『ビジョンズ』で物語は完結していたところを、『テンペスト』の物語序盤を抜き出してくっつけた、のだそうです。

 ところで『ウェザーライト』のエキスパンションシンボルは開かれた本。これは何だろう? と思っている人も多いでしょう。物語でもしばしばキーとなる、このアーティファクトです。


スランの秘本

完全に一致!





2. ウェザーライト号とキャラクター達

 ウェザーライト・サーガには実に多くの多彩なキャラクターが登場します。種族も様々です。


飛翔艦ウェザーライト飛翔艦ウェザーライト


 カード化されたのは随分終盤の『プレーンシフト』ながら、この長編のタイトルであり象徴がウェザーライト号、空を飛び次元を航行する船です。英語ですと船の類は女性名詞ですので小説ではしばしば「she/her」と書かれるのですが、その三人称に違和感のない優美なフォルム。製造過程が明かされるのは少し後(ウルザブロック)になりますが、船を設計したのはプレインズウォーカー・ウルザ。彼はドミナリアをファイレクシアの侵略から守るため、キーパーツとしてウェザーライト号を製造しました。


武芸の達人ジェラード・キャパシェン


 そしてこちらも伝説としてのカード化はずっと後になりますが主人公、ジェラード・キャパシェン。髭がトレードマークの26歳です。「荒廃の王」率いる邪悪な勢力を打ち破るべく定められた一連のアーティファクト「レガシー」の後継者として生まれ、そのために苦難な人生を送ってきました。そのレガシー探索の旅の途中で幼馴染を喪い、失望とともに一旦ウェザーライト号を降りていたのですが、シッセイ艦長が誘拐されたという知らせに再び乗り込みます。そしてそこからウェザーライト・サーガが始まります。


艦長シッセイ


 そのシッセイ。ジェラードが船を降りてからも彼女は残る乗組員達とともにレガシー探索を続けていました。その途中で、レガシーの一部が異次元世界「ラース」にあることを突き止め、その世界から脱走してきたスタークという男に接触します。ですが彼はラースからの工作員でした。シッセイは裏切られ、ラースへと誘拐されてしまいます。実は彼女の誘拐は、ジェラードをラースへとおびき寄せるための計画でした。
 他にも、シッセイ艦長に忠誠を誓うミノタウルスの戦士、副長を務めるターンガース。優秀な工匠にして航行長のハナ、ジェラードの幼馴染の戦士ミリー、船室係兼「後部砲座の撃墜王」スクイーなど、種族も様々の個性豊かな乗組員が大勢登場しています。

 さてウェザーライト・サーガの大きな特徴として、「物語の重要人物や重要な場面の多くがカードで表現されている」というものがあります。今もそれなりに存在しますが、この頃はとても多くの枚数のカードを使用してストーリーが語られています。それらを交えてお話して行きたいと思います。



3. 前日談~ウェザーライト


 恐るべき「荒廃の王」の侵略に備えて強力なアーティファクトの数々「レガシー」を収集していたウェザーライト号の乗組員達。ですが「荒廃の王」の配下にしてラースの支配者ヴォルラスが送り込んだ《ガロウブレイド》《モリンフェン》との戦いによって乗組員の一人である《ラノワールの使者ロフェロス》が命を落としてしまいます。


ラノワールの使者ロフェロスガロウブレイドモリンフェン

ロフェロスはこの頃から登場していました。始まる前から死んでいた……


 ロフェロスはジェラードの親友でした。その死という現実に、ジェラードはレガシーを追い求める代償の大きさを知ります。彼は失意の中で船を降り、それでも残された乗組員はレガシー探索を続けていました。
 ですがある日、故郷ベナリアの軍隊で《武芸の達人》として後進の指導にあたるジェラードを、苦々しい表情のターンガースが尋ねてきました。シッセイ艦長が誘拐されたという知らせを持って。


タールルームの勇士ターンガース誘拐



 ジェラードは自分が「レガシー」の後継者であり、「荒廃の王」と戦うべく運命づけられた存在であることは知っていました。自分の運命のために親友は死んだ。とはいえ過去や運命から逃げ続けている、という意識も彼の中には存在し続けていました。
 
 シッセイ艦長へと忠誠を誓うターンガースはそんなジェラードへの不満を隠そうともしません。ですが乗組員達が彼を必要としていることも理解しており、戻るようにジェラードを説得します。ロフェロスは救えなかった。シッセイはまだ間に合う、だが逃げ続けていれば彼女は死ぬだろう。そしてハナはジェラードが唯一の希望と信じていると。


航行長ハナ

カード化は『インベイジョン』ですが、美麗なプロモにもなりました。


 かつての恋人、ハナの名前を聞いてジェラードは自身の心が和らぐのを感じました。そしてシッセイ。彼女らと共有した時間を思い出し、それらを失ってしまうのは、自身の死よりも辛いことのように思えました。そしてジェラードは船に戻ることを了承し、乗組員達とややぎこちない再会を果たしたのでした。
 
 「艦長代行」となったジェラードは、もう一人の親友であるミリーを迎えるべくラノワールへと船を向けさせました。彼女は幼馴染であり、戦士として背中を守ってくれる頼もしい存在です。彼女はロフェロスの故郷へと彼の死を伝え、そのままそこに留まっていたのでした。


猫族の戦士ミリー

続く物語ではもっぱら「救われない」キャラとして有名ですが、カードとしては素直に優秀な緑クリーチャー。


 今見てもミリーのカードはシンプルに良いなあと思います。しなやかで機敏、森での戦闘に長けた猫族の戦士、そんな彼女の姿がシンプルかつ的確に表現されています。今でこそ「猫人」は白の方が多いですが、この頃は緑でした。


 さてここで、複数のカード能力を忠実に再現する面白い展開があります。ラノワールの森には困ったことが起きていました。土の怪物《アボロス》が育ち始めていたのです。


アボロス


 アボロスは土から生まれ、その歩みは緩やかで、放っておけばやがて縮んで消える存在(カード通りに)。ですがそれまでに多くの破壊をもたらします。ジェラードはミリーを仲間に加えるためにアボロスとの戦いを引き受けますが、彼には秘策がありました。

 二日後、ジェラードは起き上がったアボロスの背後へとウェザーライト号で迫ると《スランの鍛錬器》を起動し、《試練の石》を持ってその頭部に飛び下ります。彼が試練の石を触れるとアボロスは動かなくなり、そして縮みました。触れては固まり、縮み、それを繰り返すうちにやがてアボロスは塵と化し、ジェラードもまた無事に地面に降り立ちました。カードの機能的に説明しますと、

スランの鍛錬器試練の石


《スランの鍛錬器》《アボロス》をアーティファクト化

《試練の石》《アボロス》をタップ。以下累加アップキープの-1/-1カウンターが累積して死亡するまでタップし続ける

 艦長でさえ考えもしなかったであろう、一つの能力こそ些細なアーティファクトを組み合わせて巨大な怪物に対処するという機転。そしてそれをアボロスの頭部に飛び下りて遂行するという勇敢な行動。未だジェラードを快く思っていなかったターンガースでしたが、少しだけ彼を認めようと思ったのでした。いい話だわー。


 ミリーを仲間に加えて、次に向かったのはトレイリア。ラースへと次元航行するためのエンジンを動かすには魔術師が、それもかなりの力を持つ者が必要とされました。トレイリアは今でこそ《トレイリアのアカデミー》で(悪)名高い土地ですが、『ウェザーライト』以前にその名が出ていたカードは《Tolaria》及び《Halfdane》(フレイバーテキスト)くらいでした。


TolariaHalfdane水蓮の谷間

何でもドミナリアには「トレイリア島には黒蓮が咲き乱れる谷がある」という伝説があるのだそうです。


 ハナの心当たりは父親のバリンでしたが、二人は長い間仲違いを続けていました。そのためバリンは自身ではなく、弟子の一人であるアーテイを実践のために外の世界へと向かわせることにします。彼は若く(19歳!)才能と実力はあるものの自信過剰で、しばしばその言動で他者を逆撫でするのでした。本人のカードや《対抗呪文》の挑発的なフレイバーテキストは有名ですね。


熟達の魔術師アーテイ


《熟達の魔術師アーテイ》フレイバーテキスト
それだけ?
――― 熟達の魔術師、アーテイ


《対抗呪文》フレイバーテキスト
どうせお粗末な呪文だったんだろうさ。
――― 熟達の魔術師、アーテイ



 そして最後にもう一人、必要な人物がいました。行き先であるラースを知る人物。ですが彼、スタークがある意味一番の問題でした。

ラースのスターク

『Tempest Remastered』では何故か神話レアに昇格。


 スタークはラースからの脱走者であり、レガシーの一部がその次元に存在するとシッセイ艦長に伝えた人物です。しかし彼はラースの支配者ヴォルラスの工作員であり、シッセイ艦長を誘拐した張本人でもありました。それはスターク自身と、ラースの要塞に人質として捕らわれている彼の娘の命のためでしたが、彼は用済みになったとして命を狙われ、これまた元乗組員の一人クロウヴァクスによって匿われていました。

呪われたクロウヴァクス


 このカードは少し物語が進んだ彼のものですが。クロウヴァクスもまたこれから長く過酷な旅をするキャラクターです。とはいえ『ウェザーライト』当時は主に黒いカードでなんか陰鬱なフレイバーテキストばかり喋っている人、という印象でした(※個人の感想です)(※でもごめんなさい)。クロウヴァクスといえば守護天使セレニアとの切ない関係で有名ですが、それはまた後ほどに。

《生き埋め》フレイバーテキスト
死してなおさまよい続けるのと、生きたまま埋葬されるのと、どちらの方がより悲惨だろう?わたしは両方見たことがある。
――― クロウヴァクス


《腐肉あさりのゾンビ》フレイバーテキスト
わが岸辺の貝殻を拾って、耳に当ててみるがいい。海のざわめきは聞こえない。敗れた者たちのうめきが聞こえるだけだ。
――― クロウヴァクス


 スタークはヴォルラスが送り込んだ傭兵《ケルドのマラクザス》によって捕らわれてしまっていました。彼を救出しようとウェザーライト号は砂漠地帯に向かい、ケルドの駐屯地に侵入します。ジェラードはマラクザスへと一騎打ちを挑み、打ち負かしました。ですがマラクザスが降伏しようとした所に物影からスタークが飛び出し、彼を殺害してしまいました。シッセイ誘拐との関わりを明かされるのを怖れての行動でした。

 スタークはジェラードへと懺悔すると、娘がヴォルラスに捕らわれていると明かしました。ジェラードも不承不承彼を船に乗せることを認めます。ラースへ向かい、シッセイ艦長を救出するためには少なくともこの男が必要なのでした。


一か八か恩義

 
《一か八か》(左)の左下に小さく描かれたスタークがわかるかと思います。



 こうしてようやく、ラースへと向かう準備が整いました。


 このように、『ウェザーライト』の物語では「世界中を巡って手がかりと乗組員を集める」様子が語られました。ベナリア、ラノワール、トレイリア、アーボーグ、ケルド。奇しくも五色の土地が揃っていますね。『アルファ版』から登場してきたドミナリアの様々な土地の「周遊旅行」、そんな雰囲気もありました。ですがこの馴染んだ世界を離れてウェザーライト号と私達が向かうのは、間違いなく恐ろしい敵が待ち受けているであろう異次元、ラース。

世界の狭間の霊気から飛翔艦が姿を現すと、ウェザーライト号のエンジンのうなりが一際低くなった。まるで水がガラスの器を流れ下るように、ドミナリアはその船体から滑り落ち……
(小説『Rath and Storm』より訳)




4. テンペストの舞台

 そして現れた『テンペスト』の舞台ラース。「テンペスト(=嵐、暴風雨)」というタイトル。嵐雲のエキスパンションシンボル。灰色のパッケージ。実際のカード以前から、『テンペスト』には荒涼として厳しい雰囲気が漂っていました。

 その次元の風景の特徴を最もとらえているのは基本土地のアート、とは過去何度か書いてきました。それはこの頃から変わりません。「ローテーション」のシステムが確立したのは丁度この頃。今でこそ当たり前ですが、大型エキスパンションごとに登場する、その舞台独特の基本土地のアートはとても新鮮でした。



 これは雪深いながらも美しい『アイスエイジ』。




 南国の明るい雰囲気漂う『ミラージュ』。




 ですがそれに続いたのは、陰鬱で荒涼とした『テンペスト』。空には嵐が吹き荒れ、眼下の地面はいかにしてかそれ自体が滑るように動いています。まるで意思を持つように自ら動く岩、「流動石」。勿論そのような大地に作物は育たず、地図も意味を成しません。

不毛の大地


 《不毛の大地》が他の土地を破壊してしまうのは、流動石がそれを飲み込んでしまうということなのでしょう。
 ですがそんな世界にも生きる人々はいます。森に住むエルフ、人間種族ヴェクとダル、放浪生活を営むコー。独自の生物も沢山いますが、ここで興味深い話を少し。
 
 コーといえばゼンディカーブロックが記憶に新しい人も多いかと思います(とはいえもう6年前なのですが)。コーが初めて登場したのは『テンペスト』。実は最近も最近、まさにこの記事を書いている最中に新たな事実が明かされました。公式記事「『テンペスト』に関する20の秘密」によりますと、ラース次元のコーはゼンディカーを起源とするのだそうです。

コーのシャーマン石鍛冶の神秘家


 ラースは人工次元です。その住人は全て別の世界から連れてこられました(アージェンタム=ミラディンと同じですね。第17回参照)。ゼンディカー世界を設定している際に、ラースのコーはゼンディカー出身ということになったのだとか。思えばゼンディカーは大地がダイナミックに動く(「乱動」です)世界、ラースの大地も流動石に覆われていて動き続けています。ゼンディカー世界を旅して生きるコーならば確かにラースでも生き延びられたのでしょう。いわゆる「後付け設定」ですがとても理にかなっていますね。

 そして『テンペスト』で登場してすぐに一躍有名になり、今も多くのプレイヤーに愛される種族といえばスリヴァー。この連載でも第16回に特集を組みました。蟻や蜂のように群れを成す生物であり、集団意識を持ちつつ「女王」的な存在に従っています。そしてその「互いの能力を共有する」という特性がそのままカードにも表現され、スリヴァーを集めた非常に強くかつ楽しい「部族デッキ」が組まれるようになり、以来スリヴァーデッキの愛好家は絶えません。
 
 上にも述べました公式記事「『テンペスト』に関する20の秘密」には「スリヴァーの元いた次元がどこなのかは、まだ知られていない。」と書かれています。『基本セット2014』以降に登場している人型のスリヴァーが生息しているのはシャンダラー次元ですが、そこでもないということなのでしょうか。



5. テンペストの物語

 というわけでウェザーライト号と一緒に私達もラースへ、『テンペスト』の物語へと突入しました。息つく暇もなく、ウェザーライト号よりも一回り以上も大型の、禍々しい船が襲いかかってきます。ヴォルラスが送り込んだ《旗艦プレデター》。指揮をするのは《司令官グレヴェン・イル=ヴェク》、そして船を導くのは……《闇の天使セレニア》


旗艦プレデター司令官グレヴェン・イル=ヴェク闇の天使セレニア

個人的な話ですが、私が『テンペスト』で初めて引いたレアがグレヴェンでした。なんか怖そうな新キャラ来た! と興奮したのを今でも覚えています。


 今でこそ珍しくもなくなった白黒の天使。ですがセレニアを初めて見た時の衝撃といったら。「闇の天使」という二つ名がまた!! セレニアはかつてクロウヴァクス一族の守護天使でした。ですがクロウヴァクスは彼女への愛から、守護天使としてではなく自身と共にいてくれるよう願ってその任から解いたのですが、するとセレニアは何処へとも知れず飛び去ってしまったのでした。愛する天使が自分のもとから去り、よりにもよってラースの支配者に仕えている。クロウヴァクスとセレニアについては二人だけで記事が一本書けるくらいの物語があるのですが、それはまた別の機会に?

 さて即座にプレデターから砲撃が放たれ、同時にラースのゴブリン種であるモグ達が飛び降り、グレヴェン自身もまたウェザーライト号へと乗り移ってきました。嗅覚に優れるモグには、ウェザーライト号に搭載されているレガシーを奪うという任務がありました。《レガシーの魅惑》というカードがありますが、レガシーの匂いに惹かれるモグというこの場面が表現されています。
 
 すぐに船上で戦闘が始まりました。ジェラードはグレヴェンと戦いますがその最中、プレデターから猛烈な砲撃がウェザーライト号へと行われ、平衡を失った船からジェラードは落下してしまいます。ハナは宙へと腕を伸ばすも、ジェラードは眼下の森へと消えていってしまいました。


サディスト的喜び転覆突然の衝撃断念


 モグ達がレガシーを探し終えたことを確認し、グレヴェンは撤退命令を出します。モグが持ち帰るレガシーの中に、《銀のゴーレム、カーン》の姿もありました。乗組員でありながらレガシーの一つである彼はかつての過ちから「他者の命を奪わない」誓いを立てており、無抵抗のままモグ達に捕獲されたのでした。そしてターンガースもまた怒りに燃えながら、カーンを追ってプレデターへと飛び移りました。

 レガシーは奪われてしまいました。スクイーが縮こまりながら抱え込んでいた一つ、《スクイーのオモチャ》を除いて。これは「スクイーの、ゴブリンとしての臭いに隠されて発見されなかった」というなかなかひどいっていうかひどい(笑)理由によるものです。


ゴブリンの太守スクイースクイーのオモチャ


『第10版』で再録された際の新アートでは、
嬉しそうに《スクイーのオモチャ》を掲げています。



 プレデターへと戻ったグレヴェンは砲撃を行った副官《ヴァティ・イル=ダル》を糾弾します。ヴァティはグレヴェンからプレデターと司令官の地位を奪おうとしたのですが、その罰は……《悪魔の布告》


ヴァティ・イル=ダル悪魔の布告

当時、本人のカードよりも殺される場面の方が遥かに多く使われていたヴァティ。《グリセルブランド》《イゼットの模範、メーレク》よりも遥かに早く登場した「出落ちキャラ」の先駆けでしょうか(ごめん)



 さて乗組員達は知りませんでしたが、ジェラードは生きていました。彼は落下途中にセレニアによって受け止められ、ですが捕まるわけにはいかなかったために抵抗し、残りの距離を森へと落下したものの密集した木々の枝葉や茂みに受け止められて助かりました。その森の名はスカイシュラウド。Sky-shroud、「空を覆い隠す森」というだけあります。とはいえそこもまた危険な場所でした。スカイシュラウドは(土地としてのその色の通りに)湖の上に浮かんだ森で、水中は凶暴なマーフォークの棲処です。ジェラードは命からがら逃走し、やがて森に住まう人間種族、ヴェク族の人々に救出されました。


スカイシュラウドの森ルートウォーターの深淵

対抗色ダメージランドは今(2015年5月)スタンダードで活躍中ですが、最初に登場したものはタップインでした。とはいえ当時は《知られざる楽園》《真鍮の都》《宝石鉱山》と多色土地が充実していたのであまり使われなかった記憶があります。スカイシュラウドの森の根元にあるのがルートウォーター。


 一方で。プレデターから受けたダメージは大きく、ウェザーライト号もまた森へと墜落していってしまいました。のっけから物語タイトルの船が墜落するのー!?と思いますが、実はウェザーライト号、だいたい一ブロックに一度以上は墜落したり鹵獲されたりしています。多難。

 乗組員達は生存者の手当てと、船の修理を始めます。その中でハナとミリーはジェラードが生きていると信じ、森の奥へと捜索に出発しました。猫族の本能で軽やかに森を進むミリーと、ついて行くのが精一杯のハナ。


ミリーの悪知恵


 ですがやがて二人はスカイシュラウドの森に住まうエルフ達に発見され、侵入者として捕えられてしまいます。そして彼らの王《葉の王エラダムリー》の下へと連行されたのですが、幸運にもヴェクの民がジェラードを伴ってエラダムリーを訪れていました。森に住む彼らは共にヴォルラスに対する抵抗勢力であり、ウェザーライト号の出現は彼らにとって歓迎すべき勢力の登場、状況の変化でもあったのです。


葉の王エラダムリー


 ハナとジェラードはぎこちなく(まだ完全にヨリを戻してはいない)再会を喜び、一同に会した彼らは作戦を練ります。エルフとヴェク族の連合軍が要塞へと正面攻撃を仕掛けている隙に、修理を終えたウェザーライト号が要塞下部へと通じる洞窟を通って接近し、侵入する。とはいえ問題がもう一つありました。墜落の際にウェザーライト号の次元航行に必要な動力源が破損しており、ハナにもそれを修理することはできないのです。このままでは例え艦長を救出できたとしても、ラースを脱出することは不可能。そこでエラダムリーが、要塞から然程遠くない場所に次元間ポータルがあると告げました。

 そのポータルとは何か。最近のストーリーではめっきり登場していませんが、次元渡りの能力を持たずとも、次元から次元へと渡ることのできる「門」「扉」のようなものです。特定の二か所のみを繋ぐものや、行き先が設定できるものもあります。そのものずばり《次元の門》というカードがありますが、これは『インベイジョン』の物語冒頭、この門/ポータルがドミナリア上空に出現し、ファイレクシアの軍勢がやって来るという場面です。

次元の門

ウェザーライトサーガ、決戦の幕開けを示すカードです。


 ウェザーライト号は要塞へと向かう前にその場所へと立ち寄ります。乗組員の一人、オアリムの調査によるとそれは一種の魔法装置であり、起動するには魔術師の力が必要ということでした。
 


直観移ろいの門


 オアリムはウェザーライト号の船医であり、ハナとは大学時代からの友人同士です。本人のカードこそ地味ですが、《直観》《オアリムの詠唱》などでトーナメントシーンでも印象に残りました。そしてご存知の人も多いかと思いますが、マジックの長い歴史においても文句無しのハッピーエンドを迎えることができた非常に数少ないキャラクターの一人です。最近の公式記事でもわざわざ「ended up with a pretty happy ending」と書かれていたあたり、それがどれほど珍しいことかお察しください。その話もまたいずれ?

 ポータルの詳しい調査はアーテイ一人へと任され、残る乗組員達は再びウェザーライト号に乗り込むといよいよ要塞へと向かいます。そこで彼はすぐに、近くに何者かがいることに気が付きました。シャドー。


サルタリーの使者サルタリーの修道士サルタリーの僧侶


 彼らはラースとドミナリア、二つの次元の狭間に捕らわれたまま彷徨い続け、現実の物質世界への帰還を切望している種族です。後のオラクル変更にてクリーチャー・タイプも色別に「サルタリー(白)」「サラカス(青)」「ダウスィー(黒)」が定められました。アーテイの前に現れたのはその一つ、サルタリーの民の使者ライナ。もしポータルが開いたなら、サルタリーの民はそこを通り抜けていずれかの世界へと脱出できるかもしれない。ライナの説明に、アーテイは彼女の助力を受け入れ、また彼女を助けることに同意しました。

 さてウェザーライト号は《燃えがらの湿地帯》を過ぎ、《ラースの灼熱洞》へと突入しました。そこはラース独特(※当時ね!)の奇妙な群体生物、スリヴァーの巣でもありました。


筋肉スリヴァー有翼スリヴァー水晶スリヴァー

「部族デッキ」の始まりでもあるスリヴァー。当時、私は緑単デッキに《筋肉スリヴァー》を4枚入れていました。強かった。


 彼らは侵入者であるウェザーライト号へと攻撃を開始します。集まることで互いの能力を共有し、強くなるというその特質に気付いたハナの指示で乗組員達はスリヴァーを分断して戦い、事なきを得ました。
 
 スリヴァー達が生息する灼熱洞を抜けるとやがて、その巨大で禍々しい姿がはっきりと現れてきました。
 ヴォルラスの要塞、世界の邪悪の根源が。


ヴォルラスの要塞




6. 続く物語

 ……そして『ストロングホールド』へ続きます。
 セット全体に漂う暗く陰鬱な雰囲気、主人公達の苦戦する様子、そしてセレニアやグレヴェンといった新たな恐ろしい敵キャラの登場。ここまでも試練の連続でした。ですがこの先、要塞内では更なる恐ろしい展開が待ちかまえています。敵だらけの要塞内部、捕えられたカーンとターンガースの過酷な運命、明らかになるドミナリア侵略計画、そして背後に潜むもの……ファイレクシアの存在。今でこそそれなりに馴染み深く?なったファイレクシアですが、当時は全くの謎、ひたすら不気味で得体のしれない敵でした。

 『ウェザーライト』~『テンペスト』の物語は、「ウェザーライト・サーガ」全体においては序章に過ぎません。いきなりラストダンジョンだと思った? 残念、まだまだ序盤でしたー!! 実際この記事もほんの触りですし、カードにはもっと詳細な場面が綴られています。あの心揺さぶられる「抹消」の物語も、ウェザーライト・サーガ内の一エピソードです。


抹消

「一枚のカードに込められた物語」としてはこれを超えるものはないかもしれません。とはいえ最近《命運の核心》が猛追。



 この先、ウルザブロックで語られるのは、ウルザの長い長い旅路とファイレクシアとの因縁。マスクスブロックで語られるのはウェザーライト号乗組員達それぞれの、見知らぬ世界での奮闘。そしてインベイジョンブロックでは、全ての集結と終結。そしてその多くの場面やキャラクターが、カードで生き生きと描かれています。今回はテンペストリマスターを口実に、その入り口を紹介させてもらいました。続きを書くかどうかはわかりませんが、ひとまず、例の台詞で今回の記事を締めくくりたいと思います。


 「すべてのカードには物語が込められています」


(終)


※編注:記事内の画像は、以下のページより引用させて頂きました。
『Weather(light) Report』
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr308