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あなたの隣のプレインズウォーカー ~第67回 カードで分かる! ドミナリア史 その2~

2018/05/07 00:00 

    • 若月 繭子
    • コラム

 (その1はこちら)

 こんにちは若月です。前回の続きということで、『ドミナリア』のカードを過去の出来事ごとに語っていきましょう。

1. ファイレクシア侵略戦争

 前回、《ヨーグモスの不義提案》について語りました。当時のとても多くのカードがストーリーをなぞっている、そこに驚いた人もいるのではないでしょうか。現在は「注目のストーリー」として各セット数枚、物語の重要場面がカード化されています(「注目のストーリー」以外にもそれなりにあります)が、ウェザーライト・サーガ当時は非常にたくさんの場面がカードで表現されていました。それこそ「注目のストーリー」を5枚選ぼうとしても選びきれないくらいに。

 ここでは一応前回の続きとして、『ドミナリア』で他にも登場しているファイレクシア侵略戦争関係のカードを順不同で取り上げていきます。

《不死身、スクイー》

不死身、スクイー

 お前生きてたのか!! ……ああ、不死身ってのは知っていたけれどさすがに寿命はあるだろー、と私は根拠なく思っていました。寿命もないのか、あるけれどまだ至っていないのか。

 スクイーは旧ウェザーライト号の船室係でした。物語におけるコミックリリーフ的な役割も担っており、カードでも面白エピソードが語られています。

リサイクル薬袋

《薬袋》フレイバーテキスト

この薬袋と私は、これまで数え切れないほどの傷や病を癒してきた。しかしこれほど大勢の者がいつまでも治らぬひどい病に悩まされたことは、今までなかった。これからは、スクイーの作った料理は決して口にしないことだ。

――― オアリムの日記

 この真面目な記述がじわじわくる。そして本人のカード化は『メルカディアン・マスクス』。この次元のメルカディア市ではゴブリンが高い地位に就いており、スクイーもそのように扱われました。そして決して威張っているだけということもなく、その立場を利用して様々に活躍してくれました。

ゴブリンの太守スクイー

 侵略戦争も終盤が近づいた頃、スクイーはファイレクシアによって捕えられてしまい、何度死のうとも生き返る身体へと改造されてしまいます。その目的は「繰り返し処刑して楽しむため」。いや本当に。やはり様々な理由で長寿キャラ多数のドミナリア、リリアナは何を思うのか。

ファイレクシアの暴政

《ファイレクシアの暴政》フレイバーテキスト

あいつはヨーグモスから私への褒美なんだ。 あいつを毎日百回ずつ殺してやるんだ。

――― クロウヴァクスからアーテイへ

 スクイーはアーテイによって、様々な方法で殺されては生き返ることを繰り返す拷問にかけられます。やがて彼は毒ガスの中に放り込まれ、アーテイは自身の傷を治すべくその場を離れて治療装置へ入りました。ですがスクイーは毒ガスの中を一歩進んでは死に、生き返ってはまた一歩進み、死に、生き返り、進み、死に、……ということを繰り返して脱出し、そして治療装置の誤作動を起こしてアーテイを倒したのでした。

スクイーの仕返し

 これがその場面。右の顔が「仕返し相手」である《堕落した者アーテイ》。完全に悪役になってしまったとはいえ、まさかスクイーに殺されてしてしまうなんて。彼も可哀想なキャラでして、『エクソダス』でウェザーライト号に置いていかれ、『ネメシス』で破滅の運命を辿りました。とはいえ『ネメシス』での彼は主要キャラクターの1人として、その横柄で自信過剰な態度を逆境における不屈の精神に変えて格好いい所(と微笑ましい恋模様)を見せてくれます。いずれこれも詳しく語ろうな。

 少し話がそれました。そしてスクイーはこの侵略戦争を生き延び、後にシッセイ艦長の下で帆船「勝利」号に乗って新たな冒険の旅に出ることを選びます。プレインズウォーカーとなったカーンに連れられてメルカディアへ渡り、ゴブリン達の王になるという選択肢もありました。ですがスクイーにとっては王様の地位を手に入れるよりも、シッセイ艦長に仕え続けることが至上の幸福だったのです。

スクイーの抱擁

 スクイーについての解説を書くと私はいつも締めが同じだな! でも好きなんだよ!! ああそういえば、《不死身、スクイー》は未だに《スクイーのオモチャ》を持っていますが、「あれはたぶん代用品」とのこと。本物は《レガシーの兵器》の一部となって今や失われたはずですからね。

《マーフォークのペテン師》

マーフォークのペテン師

《マーフォークのペテン師》フレイバーテキスト

一人のプレインズウォーカーが犠牲になって破滅を免れたエリタレイトの植民地では、命を奪わないという誓いを立てている。

 「一人のプレインズウォーカー」。これはかのナイン・タイタンズの一員、ボウ・リヴァーです。

反論プレインズウォーカーのいたずら予言の稲妻

 彼は兄弟戦争の時代に船乗りから私掠船員として活動し、兄弟戦争を終わらせた《ウルザの殲滅破》によってプレインズウォーカーとして覚醒しました。その後もずっと海を愛し続け、多元宇宙をまたにかける船乗りとして生きてきました。『イクサラン』よりも遥か昔からいた船乗りプレインズウォーカーです。

 侵略戦争時にボウ・リヴァーはウルザによってナイン・タイタンズに召集されます。ファイレクシアの環境や裏切りによってその何人もが命を落としながらも彼は帰還しました。そしてヨーグモスがドミナリアに顕現し、その毒の雲が世界を覆わんとした時、ボウ・リヴァーは愛した海の一部を文字通り自らの全てを捧げて守りました。それが《マーフォークのペテン師》に言及されているエリタレイト。ここはヴォーデイリアから逃れて敵対するマーフォークが集う共同体でしたが、侵略戦争とこの出来事を経てその二つは歩み寄り、新たなヴォーデイリアを築くことになります。

 さらに『時のらせん』時にテフェリーは、このボウ・リヴァーの行いから時の裂け目を修復するための大きなヒントを得ました。自らの真髄までも使い尽くせば、守るべきものは守ることができる……「時の海を旅する」テフェリーにとっても、ボウ・リヴァーは「本物の海を旅する」先輩プレインズウォーカーとして尊敬する存在だったようです。

記念像サイクル

 アンコモン土地サイクルである「記念像」。ドミナリアの過去の英雄の彫像が描かれています。

名誉の記念像天才の記念像

 この2枚はわかりやすいですね。ベナリアにはジェラード、アカデミーにはウルザ。それぞれ縁のある地に建てられています。雰囲気や色彩もとても明るく、災害から復興した新時代のドミナリアを見守っているかのようです。

愚蒙の記念像

 一方で《愚蒙の記念像》には荒廃の様子が描かれています。白と青に続いて再びジェラードとウルザの彫像、ですがこちらは破壊されてしまっています。公式記事「MEMORIALIZING DOMINARIA」によれば、ここは《殉教者の墳墓》。たしかに背後にそれがあるのがわかります。

殉教者の墳墓

 《殉教者の墳墓》は侵略戦争の終結後、戦没者の慰霊のためにアーボーグに建てられました。アーボーグは今や陰謀団、そしてベルゼンロックの本拠地。彼らに過去の英雄を敬う気などないのは明白です。

結束の記念像

 赤を飛ばして(そちらはオタリアにて)緑の記念像は《葉の王エラダムリー》『テンペスト』での初登場が示すように、彼はドミナリア生まれではありません。『ネメシス』の物語にてポータルを通ってドミナリアへ渡り、ファイレクシアとの本格的な戦いに身を投じました。『インベイジョン』ブロックのいくつものカードに姿を見せているのはそういうわけです。

ベルベイの門勇士の再会

《ベルベイの門》 フレイバーテキスト

戦いは、新しい戦場でまだまだ続くだろう。

《勇士の再会》 フレイバーテキスト

あなたは私の民がファイレクシアのもたらす悲運から逃れるのに手を貸してくれました。私がそのお返しをしないと思っていたんですか。

――― エラダムリーからジェラードへ

 ラースからの来訪者でありながら、エラダムリーはドミナリアのエルフだけでなく様々な種族や勢力とともにファイレクシアと戦いました。

エラダムリーの呼び声ラノワールの先兵

《エラダムリーの呼び声》 フレイバーテキスト

エラダムリーからの召集がかかると、部族間の葛藤やつまらないいさかいは、すべて棚上げになった。

《ラノワールの先兵》 フレイバーテキスト

ラノワールはエラダムリーの旗じるしの下に結集し、彼の名において団結した。

 なるほどエラダムリーは「結束」を示す英雄に相応しいと言えます。そんな彼もファイレクシアの侵略最終局面では生き延びることはできず……この話もいずれ詳細に。本当この連載「いつか」「いずれ」ばっかりですまない。

《内陸の湾港》

 『イニストラード』で登場した「対抗色M10土地サイクル」が新絵で再録。『イニストラード』版はその次元の陰鬱な雰囲気に合わせて暗めのアートが多かったのですが、今回は復興と再生のドミナリア、結構明るいものとなっています。《内陸の湾港》はアーチ型の地形が見下ろすどこかの港町、ですが実はそれはファイレクシア侵略戦争の遺物なのでした。

次元の門内陸の湾港

《内陸の湾港》 『ドミナリア』版フレイバーテキスト

「私たちの祖先はファイレクシアの門船を落とし、その船殻の上に都市を築きました。私たちの誇りです。」

――リバースパンのアリーン

 並べるとたしかに一致。港町が一つすっぽりその下に入るというあたり、《次元の門》は物凄く巨大なのだとわかります。侵略戦争ではこれがいくつもドミナリアの空に出現した……一見して穏やかで美しい風景の中から、改めてその戦いの凄まじさが伝わってきます。

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2. オタリアの騒乱と陰謀団

参考回

 『オデッセイ』『オンスロート』ブロックにて展開された騒乱も、ドミナリア次元の歴史を語る上では勿論欠かせません。『オデッセイ』ブロックについては前々回わりと詳しく取り上げましたが、ざっくり言うと、強大で謎めいた魔法のアーティファクト《ミラーリ》を巡り争う人々や勢力の物語です。『ドミナリア』でもその場面や主要登場人物が取り上げられています。

《チェイナーの苦悩》《喪心》

チェイナーの苦悩

 まずはこちら。『オデッセイ』『オンスロート』ブロックの主人公カマールの友人であり、『トーメント』ではむしろ彼自身が主人公を務めるチェイナーの名を冠する英雄譚。前回書いたように、英雄譚の1枚である《アンティキティー戦争》は物語中に存在する書物でもありますが、こちら《チェイナーの苦悩》我々が生きる次元に実在する書物です。一体何を言っているんだ。こちらです。

Chainer's Torment
Chainer's Torment

 マローの記事でも説明されていましたが、「Chainer’s Torment」は『トーメント』小説の正式タイトル。小説表紙のタイトルロゴにちっちゃく「Chainer’s」と書かれているのがわかります。第65回にも書きましたが、陰謀団構成員チェイナーは優れた才能から狂気の召喚士となるも、《ミラーリ》の影響に抗えずその力を暴走させ、果てには自らの悪夢のバックファイアを受けて苦悶の死へと至ってしまいます。当初は力を振るうも、最後には何倍にもなって自らに返ってくる。《チェイナーの苦悩》はそんなチェイナーの最期をよく再現していると思います。……ですがそうするとよくわからないのが、《喪心》のフレイバーテキストで。

喪心

《喪心》 フレイバーテキスト

「お前の命は尽きた。お前の名は消え失せ、お前のやったことは忘れ去られる。マズーラなどという者は存在しなかったのだ。」

――チェイナーの苦悩

 マズーラ/Mazeuraというのはチェイナーの本名です。陰謀団の構成員の多くはチェイナー/Chainer(鎖使い)ブレイズ/Braids(編み髪)というように得意技や外見的特徴から来る「通り名」を用いているため、この本名はあまり知られていません。ですので小説刊行から16年の時を経てカードに登場するとは驚きました。《喪心》のルールテキストは「伝説でないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する」。そしてこのフレイバーテキスト。チェイナーは伝説のクリーチャーなのに……? ちなみに実際の小説にこの台詞は存在しませんでした。忘れ去られる=誰もその者を語らなくなる。狂気に呑まれて死に至ったチェイナーの最期を表現したもの、とかなのでしょうか。

《カマールのドルイド的誓約》《闘争の記念像》

カマールのドルイド的誓約

 次にこれは『ジャッジメント』の物語ラストシーン付近。《ミラーリ》を取り付けた剣でカマールは《ラクァタス大使》の身体を大地に突き刺し、そこから草花が一斉に芽吹き、そしてカマールはバーバリアンとしての生き方を捨ててドルイドの道を歩み出す……という。カマールの手前にその剣があるのが見えます。角度が少し違いますが《ミラーリの目覚め》ですね。

闘争の記念像

 そして一気に『スカージ』まで飛んだ。他の記念像サイクルとは異なってあまり色との繋がりはありませんが、これは《邪神カローナ》。カマールはドルイドとなって心の安寧を見出すも、それは戦いから完全に離れることを意味するものではありませんでした。オタリア大陸では《怒りの天使アクローマ》《触れられざる者フェイジ》を筆頭とする戦いが勃発し、長く瞑想の中にいたカマールも再び立ち上がります。『レギオン』の物語クライマックス、アクローマとフェイジはカマールの剣によって共に刺されるのですが、その際に不思議なことが起こって(雑な説明)2人は合体し、ドミナリアの魔法の顕現であるカローナとなりました。この記念像は「過去に活躍した英雄」からは外れるものの、その時代を象徴する邪神へと捧げられた彫像、なのだそうです。

 このアートでのカローナ像はほぼシルエットで、詳細部分はわかりません。けれどそれもまた『スカージ』でのカローナを思い出させます。

正義の命令苦痛の命令

 このように、特徴的なシルエットとその存在感が実に印象的でした。

セラとセンギア

 オタリアに起こった騒乱と直接の関係はないと思うのですが、その勢力と不思議な繋がりを持つに至ったのでこちらに含めています。

 マジックの物語では「天使と吸血鬼」の組み合わせが特徴的に見られます。セレニアクロウヴァクスアヴァシンソリン、『ドミナリア』にも新ウェザーライト号の乗組員に天使ティアナと吸血鬼アルヴァードがいます。この伝統はおそらく、マジックの始まりから共にあるクリーチャー2枚、《セラの天使》《センギアの吸血鬼》に起因するものではないでしょうか。セラとセンギア、長い時を経てもその名はドミナリアに生きています。

エイヴンの歩哨セラの信奉者

《エイヴンの歩哨》 フレイバーテキスト

「私の群れは大変動と戦争で廃墟となった遠い大陸から飛んできました。ベナリアは私たちに避難所を与え、放浪生活を終わらせてくれました。」

《セラの信奉者》 フレイバーテキスト

神学者たちは、祖神がセラの異なる神性であると考えるようになった。

 『オデッセイ』『オンスロート』ブロックの白組織「オーダー」。彼らが信奉していた「祖神」は当時あまり掘り下げられてはいなかったのですが、『ドミナリア』の時代にはセラと同一視されており、祖神信仰はセラ信仰へと統合されたことがわかります。この2枚の背後にはドミナリアのセラ教会の建築が見えます。セラの聖域から移り住んできた天使や信奉者が新天地に築いた本拠地であり、『ウルザズ・サーガ』で見られたそれの面影をよく留めています。『ドミナリア』の平地にも。

平地セラの聖域

 でもこれは平地っていうか「平」でも「地」でもないのでは……凄く綺麗だけど……。

 そして、かつての陰謀団全盛期(だよね)、『トーメント』にて《センギアの吸血鬼》が再録されていました。永遠のライバルである《セラの天使》は当時『基本セット第7版』にいたので、スタンダードで再びの同居を果たしました……とはいえ、当時は《火炎舌のカヴー》がありとあらゆるタフネス4以下を焼き払っていたのですけれど。

センギアの吸血鬼

 『トーメント』の小説では、そのセンギアの吸血鬼が溶岩使いの魔術師と戦うという場面があります。しかもそれをチェイナーとカマールが観戦するという。

小説「Chainer’s Torment」P.85より訳

チェイナーがカマールへと言った。「俺がわからんのは、溶岩使いに賭けた奴らがどうして金が戻ってくるなんて考えたかってことだ。たしかに倍率はいいが、相手は吸血鬼だぞ。それもただの吸血鬼じゃなくてセンギアの吸血鬼だ」 ピットの中央に立つ、人に似た禿頭の巨体をチェイナーは指差した。犬歯にとどまらずすべての歯が鋭く尖って角のように伸び、指先からは汚れた鉤爪が伸びていた。

(略)

カマールはその鋭い歯をした怪物を認め、そして闘技場を見て杯を飲み干した。「センギア?」

「古の吸血鬼の王だ。神話と言えるかもしれない。普通の吸血鬼は村や町で狩りをするが、センギアは大陸をまるまる獲物にしたとか何とか」

「で、その吸血鬼の王様がピットの前座に出るのか?」

「センギア本人じゃないさ。下僕の一体だ」

 元々はウルグローサ次元(『ホームランド』の舞台)センギア男爵を祖とするセンギア。この場面を読むに「センギアと言えばすごい吸血鬼の血統」くらいの認識でドミナリアに広まっているのかもしれませんね。ちなみに戦いは「センギアの吸血鬼が溶岩使いの首筋に噛みつくも、相手の血はまさに溶岩のように熱く、顎を融かされてしまう。そこで溶岩の魔法を食らわせた溶岩使いの勝利」という感じの展開でした。

センギアの純血、カザロフ

 『ドミナリア』にも、きちんといますねセンギアの血統が。《呪われし者、アルヴァード》を吸血鬼化したのは彼なのだとか。そして現代ドミナリアにもセラ信仰が生きています。マジック創成期からの戦いは今も続く……。

陰謀団

 そして今回の悪役組織、陰謀団。正直、物語本編に絡めて深く取り上げたいところなのですが、今回はひとまずフレイバー的に何としても語りたいものについて解説しますね。

 『オデッセイ』『オンスロート』では主人公と敵対こそすれ、完全な「悪役」ってわけでもないな、と解釈していましたが今回の陰謀団は文句なしに悪役組織と言っていいかと思います。元はオタリア大陸内での一勢力でしたが、《悪魔王ベルゼンロック》がそのトップになったことから世界中へと勢力を広めています。ああ、広めているのはそれだけでなく、ベルゼンロックの高名も。

陰謀団の福音者

《陰謀団の福音者》 フレイバーテキスト

「悪魔王ベルゼンロック様を褒め称えよ。このお方こそ、要塞のエヴィンカーにして闇の末裔、愚者滅ぼしにして荒廃の王、漆黒の手の主にして陰謀団の永遠総帥……」

 フレイバー的に、っていうかほぼフレイバーテキストのために存在しているといっても過言ではなさそうなこのカード。怒涛のドミナリア歴代ヴィランの肩書きよ! 世界観解説動画「[PV] Access Magic :『ドミナリア』第2話」によれば、まさしく「ベルゼンロックのたくさんの肩書きを吹聴するためにバニラクリーチャーが作られた」とのことです。元々フレイバーテキストは主にバニラクリーチャーの文章欄を埋めるものとして生まれたものです。それが今やフレイバーテキストのためにバニラクリーチャーが作られるなんてねえ。Magic Storyによれば陰謀団員は本当にこれを吹聴して回っているようです。

Magic Story「ドミナリアへの帰還 第5話」より引用

「その通りですよ」 ラフが外へ続く扉から声を上げた。「そいつ、ありとあらゆる肩書を欲しがってるんですから! 『陰謀団の永遠総帥』『アーボーグの王』『荒廃の王』『漆黒の手の主』……」

 ところで《陰謀団の福音者》が手にしているもの。これは香炉ですね。オタリア時代の陰謀団がよく使っていたアイテムであり、狂気へ突入する触媒になったり、ピットで戦う時には煙幕として使用していたりしました。昔のカードにもこの通り。

サディストの催眠術師苦痛をもたらす者陰謀団の見習い

 トップと共に組織の方向性や性質も随分と変わった陰謀団ですが、昔の技術や慣習も所々に残っているようでちょっと嬉しくなります。この人もたぶん同様。

血の儀式司、ウィスパー

 陰謀団の構成員の多くは得意技や外見的特徴から来る「通り名」を用いている、と上に書きました。ウィスパー/Whisper、「囁き声」。そしてこの人、From the Vault: Lore版《陰謀団の儀式》にいましたよね? 衣装こそ異なりますが香炉にナイフ、嘆願する信者、アートも同じKieran Yanner氏です。

陰謀団の儀式

 第47回でも書いたように、当時このカードで「陰謀団はまだ存続している」ことが示されました。『ドミナリア』の発表すらまだ遠い頃のことです。まだ存続している、どころかオタリア大陸から飛び出して世界中に広まっているとは思いもよりませんでした。

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3. 大修復

参考回

 やっとここまで辿り着いた! 2006-2007年、『時のらせん』ブロック。何度も語ってきましたので詳細は省きますが、昔から続いたいくつもの大災害の傷跡を修復して多元宇宙の法則とプレインズウォーカーの性質が変化、物語的にもゲーム的にも現代のマジックに繋がる非常に重要な出来事です。そしてこの出来事を最後に私達はドミナリア次元から旅立ち、長い時を経てこの春帰還しました。

《ドミナリアの大修復》

ドミナリアの大修復

 そんな大修復、英雄譚でそのままのカード名が来たぞ。下からテフェリー、カーン、ウィンドグレイス、フレイアリーズ。ドミナリア次元の「時の裂け目」を塞ぐためにその身を捧げたプレインズウォーカー達が像へと刻まれています(本当はもう2人いるのですが、レシュラックとジェスカ)。フレイアリーズとウィンドグレイスが目立つのは、その命までも失ったためだけでなく、人々の守護神として敬愛されていたことを示しているのだと思います。

 『時のらせん』『次元の混乱』小説でその展開を読んだときの衝撃は今でも忘れません。あれほど強大な力を振るったプレインズウォーカーが「決意」「諦め」を抱く、それがいかに大きなことか。中でも私が一番涙したのはフレイアリーズのそれでした。せっかくですので第28回に載せた翻訳をリファインして再掲します。

小説『Planar Chaos』 P.249-250より訳

フレイアリーズはシヴでの彼を見ていた。彼が何を成したかを全て知っていた。そして、恥じ入った。彼の成功に対してだけではなく、自分にはない、羨むこともない、時間というものに対しての卓絶した知識と経験に。いや、違う。恥じ入ったのはテフェリーの素晴らしい状況把握に対してではなく、その勇気に。テフェリーは目的を達成するために死に往く覚悟をし、シヴの裂け目へと身を投じた。その大胆さと決心が、彼女自身の嘘を突きつけた。フレイアリーズ自身、スカイシュラウドの森を守る為ならば何をも厭わないつもりだった。

(略)

だがテフェリーがその力の最後の一滴までも使い果たしたのを見て、自分は間違っていたと思い知った。スカイシュラウドの為に死のうなどとは、それどころか、森のために自身の力を失うことすら望んでいなかった。自分の、自然の秩序への愛が、養子達に苦難と悲哀を強いることになった。そして破滅を招くに至りかけたのだ。

ラノワールの憤激、フレイアリーズ

 女神として崇められて生命を育み、その一方で定命の存在など些細なものと見下す傲慢さとプライドの高さを併せ持つ、あのフレイアリーズがここまでの覚悟を……と読むこちらも打ちのめされました。ちなみにこの少し前にヴェンセールが新世代プレインズウォーカーとして覚醒する場面がありまして、めっちゃ昂ったところでこれでした……その読書体験そのものも忘れられません。

《ウィンドグレイスの騎士、アルイェール》《ウィンドグレイスの見習い》

 一方でウィンドグレイスについてはこれまであまり語っていません。ですので……ここは《ウィンドグレイスの騎士、アルイェール》のプレビューツイートを一部再掲させてください。

 こちら、4月11日に私から《ウィンドグレイスの騎士、アルイェール》の先行プレビューを発表させて頂きました。長いことマジックの物語世界について語ってきましたが、私の言葉で、過去の物語を交えながら、全くの新しいカードを紹介させてもらう……そんな機会を貰えたことは最高の栄誉だと思っています。それも『次元の混乱』当時、とても大きく心を揺さぶられたエピソードの一つを絡めて書けるなんて。

《ウィンドグレイスの見習い》 フレイバーテキスト

ウィンドグレイス卿の失踪後も、見習いたちがアーボーグの秘宝を陰謀団の手に渡さぬよう戦い続けている。

 アーボーグはかつてファイレクシアの本拠地要塞が転移してきて激戦地となり、今もファイレクシア兵の残骸が転がっています。ここは今や陰謀団の本拠地となっていますが、守護者であったウィンドグレイス卿の志を継ぐ者らは戦い続けているのですね。

ボーラス関係

 さて、大修復は変化と再生をもたらしました。一方で大修復によって、といいますか大修復に付随して「ドミナリア最古の巨悪」が解き放たれたこともまた事実です。ニコル・ボーラスはかつてマダラ帝国の《Tetsuo Umezawa》によって殺害されるも(第58回参照)、『時のらせん』の物語にて復活を果たしたのでした。その場面もまた英雄譚として今回カード化されています。

最古再誕

 ボーラスは完全に滅んでいたわけではなく、残留思念のようなものが残っていました。彼はマダラの海岸を訪れたテフェリーの仲間にいた2人、ラーダとヴェンセールの力を……新世代プレインズウォーカーの灯を錨のように用いて蘇りました。《最古再誕》の絵を見ますと、その最下部にはボーラスの角によく似た構造物があります。この連載でも何度か取り上げました《鉤爪の門》。物語でもボーラスはまさにここを通って蘇りました。《最古再誕》のアートはちょっと水墨画っぽい感じですね。マダラ帝国→神河→日本イメージ繋がりなのでしょうか。

逃亡者、梅澤哲子練達の魔術師、ナル・メハ

 そして梅澤一族は生きていた!

 かつてテツオに殺害された恨みから、今もボーラスは梅澤一族に敵意を抱いています。また哲子と直接面識や関わりがあるのかはわかりませんが、ナル・メハはテツオの戦友としてボーラス打倒を手助けしたコロー・メハ/Koro Mehaの子孫です(実は第57回59回にちょっと名前が出ています)。ナル・メハの名前を最初に見た時は正直「メハって……何てマニアックな所を……」と思いました。まあ、小説のみ登場キャラのカード化も今やそれほど珍しくはないのですけどね。

大修復を辿ったキャラクター

 『時のらせん』ブロックにてその最古再誕や大修復に携わり、それでいて今も生き続けているキャラクターの多くが『ドミナリア』には再登場しています。

ドミナリアの英雄、テフェリーウルザの後継、カーン
ウェザーライトの艦長、ジョイラ総将軍ラーダヤヴィマヤの化身、ムルタニ

 ……こう並べるたびに、1人足りないって思わずにいられないのだけどね。

 メインストーリーにも関わるのでそちらと絡めて詳しく語りたいのですが、気になるのはやはりテフェリー。ご存知の通り、テフェリーは『時のらせん』の物語にてプレインズウォーカーの灯を失い、ただの人となりました。それが今回またプレインズウォーカーに戻っている、これは一体……というのが『ドミナリア』ストーリーの大きな謎の一つです。そしてMagic Story「ドミナリア」編 第6話ラストでどうやら「ジョイラが持っている」らしいことが示されました。でもどうやってそんなことを、というのはまだわかっていません。そしてカードからは「いずれテフェリーはその灯を受け取る」ことがわかります。何せプレインズウォーカー・カードになっているんですから……

テフェリーの防御ザルファーの虚空

《ザルファーの虚空》 フレイバーテキスト

「風は『故郷に帰ろう』とささやく。だが私には不可能だ。」

――テフェリー

 《ザルファーの虚空》はたまらなく切ないカードです。『インベイジョン』期、テフェリーは故郷ザルファーをファイレクシアの矢面に立たせないためにフェイズ・アウトさせました。《テフェリーの防御》はその場面、ですが『時のらせん』で灯を失ったことにより、さらには『未来予知』にてプレインズウォーカー・ジェスカの無謀な行動によってザルファーはドミナリア次元の帰還がかなわず、時の中に失われてしまいました。《ザルファーの虚空》《テフェリーの防御》と同じ場所、今は手の届かないザルファーの姿が空に映し出されています。故郷や家族を失ったことでテフェリーを恨む者も多く、また彼自身、当時のその決断は正しかったのだとしても、復興と成長の現代ドミナリアを見て心揺れます。

Magic Story「ドミナリアへの帰還 第7話」より引用

だが彼は、かつての選択を思った。ザルファーは破壊されるか、さもなくば世界から取り除いてそのまま閉じ込めておくか。琥珀の中の骨のようにニアンビを閉じ込めておく、その考えに彼は酷く気分を悪くした。自由と成長を犠牲にしてまで、安全を守ることはない。それは明らかに思えた。

ザルファーについては明らかではなかった。ファイレクシアに対してザルファーの何らかが生き延びる保証はなかった。だがドミナリアの多くは無事ではなくとも生き延び、残されたものは新たに成長し発展することができた。

選択テフェリーの誓い

《選択》 フレイバーテキスト

テフェリーのプレインズウォーカーの灯を受けて水晶が明滅していた。ジョイラが与えたのは恩恵なのか、それとも呪いなのだろうか?

《テフェリーの誓い》 フレイバーテキスト

「失われ忘れられた者たちのため、私はゲートウォッチとなる。」

 そしてどうやら灯を受け取っただけでなく、ゲートウォッチ入り! 若いプレインズウォーカー達の力になると同時に、ザルファーを取り戻す手段を多元宇宙へ求めるのでしょうか。その決心に至る過程はまだわかりませんが、テフェリーは話好きで詩的表現も得意なので「誓い」の全口上が今から楽しみです。それにしてもニッサが抜けてリリアナがボーラスのもとへ行って?(※《ボーラスの手中》を見る限り)、ゲートウォッチのカラーバランスがずいぶんと白青寄りになってしまった。

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4. 今回はここまで

 この回が載る頃にはMagic Story「ドミナリア」編もそろそろ終盤近く。ストーリー本編の話もしたいし連載タイトル通り(超今さら)プレインズウォーカーメインでも取り上げたいし、昔の話も色々と……。書きたいことがたくさんあるというのは嬉しいことです。

 それではまた次回に。

 (終)

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