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あなたの隣のプレインズウォーカー ~第54回 未来予知図の10年目~

2017/03/13 00:00 

    • 若月 繭子
    • コラム

【公式記事「バック・トゥ・ザ・未来予知」】(原文掲載:2007年4月9日)より引用

 未来予知では、興味を持ったプレイヤーにはありとあらゆる世界の可能性を覗き見ることができる。そして──あなたが望む世界が、将来マジックのセットとして描かれる可能性もあるのだ。

 こんにちは、若月です。

 マジックはとても長く続いているゲームです。発売は1993年。私が始めたのは1994年、最初に購入したのは『Revised Edition』(第3版)のスターターデッキ。封入されていたレアは《セレンディブのイフリート》《破裂の王笏》でした。

セレンディブのイフリート破裂の王笏

 見ての通り、『Revised Edition』の《セレンディブのイフリート》はエラーカード。ですがネットも普及していなかった当時はよくわからなかったので、召喚する際は青マナを使用、「防御円」などで色を参照する際は緑クリーチャーとして扱う、という身内ルールでプレイしていました。

 と、昔話をしてしまいました。今回は予告通り、発売から10年を迎えようとしている『未来予知』を探ります。10年前に一体どのような「未来」が描かれ、果たしてどれほどが現実になったのでしょうか?

1. 時のらせんブロック概要

 『未来予知』を含む『時のらせん』ブロックは、マジックの長い歴史でもかなり特殊な存在です。

 舞台となったのはドミナリア。『スカージ』以来4年ぶりの来訪、ですがそこは度重なる世界規模の惨事によって荒廃しきっていました。物語ではプレインズウォーカー・テフェリーを中心として世界を「修復」する――プレインズウォーカー達がその過去を償う――旅が、カードでは様々な形の「郷愁」が語られました。どちらも、まるでマジックの歴史を振り返るかのように……。

アカデミーの廃墟祖先の幻視組立作業員

 『時のらせん』から始めましょう。あの(悪)名高い《トレイリアのアカデミー》のその後。パワー9の一角をリメイク。懐かしいクリーチャー・タイプ。カードの頭文字「A」だけで既にこれですよ。1枚1枚全部取り上げていったらそれだけで今回の記事が終わってしまう!

騎兵戦の達人時計回し顔なしの貪り食い調和スリヴァー

 「側面攻撃」「バイバック」「シャドー」\スリヴァーだー!/

 直接「過去からやって来た」カードもあります、「時のらせんタイムシフト」カード。プレリリースまでその内容は秘密とされていました。中には日本語初翻訳のものも。

心霊破空飛ぶ男暗黒従者

 収録元は左から順に『Limited Edition Alpha』(アルファ版)・『アラビアンナイト』・『レジェンド』・『ザ・ダーク』。今も未訳のカードが多く存在する(まあ再録禁止もあるので……)いにしえのセットです。

 そして続く『次元の混乱』でテーマとなったのは「時間と空間が混乱した現在」でした。

憤怒の天使アクローマ妖術の達人ブレイズ呪われたミリー

 それは例えば異なる選択を経てきたキャラクターであったり、「平行世界」というifの存在であったり。強さと美しさはそのままに赤の天使となったアクローマ清純なブレイズ、死の運命を逃れたものの呪いを受けてしまったミリー。「正史」「平行世界」共に悲しい運命を辿るミリーについては第44回に詳しく書きましたので、知りたい方はそちらをご覧下さい。本当切ないので……。

 また、『次元の混乱』ではそれまでと(&その後と)異なるカラーパイのカードが登場しました。

同期スリヴァー棘鞭使い

 青の警戒、赤でバウンス。そして色を変えた「同型再版」。中にはその後のトーナメントに大きな影響を及ぼしたものも存在します。

滅びマナの税収調和

 何といっても《滅び》ですね。たしかに黒にも全体除去は存在します。個人的に思い出深いのは『オデッセイ』ブロックスタンダード時代、黒系コントロールでよく使われた《もぎとり》。ですがこの《滅び》は「一目瞭然さ」や公開方法と相まってその衝撃はかなりのものでした。また昔話になりますが、2007年の元旦のこと。何気なく巡回した米公式ウェブサイトのトップページに表示された《神の怒り》、それがぼんやりと黒くなり、名前も変わり……あれは今でも忘れられません。もう見られないのが本当に惜しい。

 そして過去、現在と来たらその次は当然、未来。『未来予知』が目指したものとは? 当時の公式記事「Magic, Now With G5-27 Attachment!」(原文掲載:2007年4月30日)ありました。抜粋して訳します。

公式記事「Magic, Now With G5-27 Attachment!」より引用・訳

カードの半分は現在(アポカリプス後、現在のドミナリア)のカードになる。それらは現在を示すが、何かしらヒントになっているか、指示しているか、やり取りをしているか、もしくはそれ以外の方法で未来を見ている。もう半分、「タイムシフト」カードは、「未・来・か・ら」やって来たもの。待て、そんな単純なものじゃない。タイムシフトカードは「たくさんの、すごくたくさんの未! 来! か! ら!!!」やって来たもの。

 「未来を見ているカード」そして「未来からやって来たカード」。未来、とは言いますがそれがどれほどの未来なのかは様々でした。近い所で数ターン後の未来から数年後はたまた数10年後、いつになるのかもわからない遠い未来まで。『未来予知』の収録カードは『時のらせん』『次元の混乱』と同様にマジックの歴史を辿りつつも、見たこともないようなカードばかりでした。いやたしかに全ての新セットは「見たこともないようなカード」ばかりなのですが、『未来予知』はそれが際立っていました。

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2. 未来のカード

 見たこともないようなカード、ですがそれは確かにマジックのカード。どういうことか? マローは「コーラの缶」を例に出して述べていました。

公式記事「The Future Is Now Part I」より抜粋・訳

未来のコーラ缶を想像しよう。細かい部分についてはわからなくとも、それはコーラの缶と認識できる十分な要素がある筈だ。

 つまりは未来のカードであっても、そこにはマジックのカードと認識できる十分な要素がある。『未来予知』の段階でマジックの誕生から14年、ルールも見た目も様々変化してきました。それでも一目見て「マジックのカード」であることがわかります。どれほど奇抜であっても、マジックのカードとして作られたということ……「未来のカード」であることを示す「未来予知タイムシフト」には様々な形で「未来」が表現されています。

 まずは、実際に未来のセットでそのまま収録されたカード。

血まなこの練習生血まなこの練習生
燐光の饗宴燐光の饗宴

 「未来のセットでそのまま収録」ではなくむしろ「未来からの再録」と表現すべきですね。

 そして今ではさほど珍しくない、ですが『未来予知』で初めて登場したシステム、ギミックも多数存在します。

サルコマイトのマイア

 今では時々見るようになった「色付きアーティファクト」も初出はここ(《ギルド渡りの急使》……は微妙)。しかしこのマイアはミラディンの傷跡ブロックで再録されませんでしたね。

幽霊火

 無色は無色でもアーティファクトとはまた異なる「無色呪文」も。この《幽霊火》が示した未来……無色の炎、三つ目の僧、精霊ドラゴン……もうお分かりですよね。詳しくは第27回に!

墓忍び論理の結び目死に際の喘ぎ

 新キーワード、中でも「探査」は『タルキール覇王譚』『運命再編』にてスゥルタイ群のキーワード能力として登場しました。《宝船の巡航》《時を越えた探索》などはまだ記憶に新しいですね。

公式記事「Magic, Now With G5-27 Attachment!」より抜粋・訳

探査は狂気の「死の召集」として始まりました。墓地のクリーチャーをタップすることによってコストを軽減させるというものです。とはいえ実際の所それはあまりに壊れている上に、我々専属のルールマネージャー曰く、不可能であると。私の記憶が確かならば、戦場にないカードは状態を持たない。つまり実際にプレイされていないカードをタップすることはできないのです。

 そしてタイムシフト以外でも、実際にゲーム中で「未来」を意識させてくれるカードの数々。

否定の契約弧状の刃時代寄生機

 「待機」は『時のらせん』からですが、『未来予知』では自動的に待機状態に入り、未来のターンを常に意識させるカードが登場しました。そして「契約」シリーズ。「そうしない場合、あなたはこのゲームに敗北する。」という強烈な一文は、すぐ先の未来をこれ以上ない程に意識させてくれます。

 次の項目からは、特に注目された(もしくは私が個人的に紹介したい)いくつかのカードについて詳しく見ていきましょう。

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3. タルモゴイフとプレインズウォーカー

タルモゴイフ

タルモゴイフのパワーは、すべての墓地にあるカードのカード・タイプの総数に等しく、タフネスはその値に1を加えたものに等しい。 (カード・タイプは、アーティファクトかクリーチャーかエンチャントかインスタントか土地かプレインズウォーカーかソーサリーか部族である。)

 今や説明不要の強クリーチャー、《タルモゴイフ》。ですが「発売当時はテキストの『プレインズウォーカー』ばかり注目され、多くの人が実は強いことに気付けなかった」というような話は聞いたことがあるのではないでしょうか。《タルモゴイフ》の強さがどう認知されていったかは、つい先日掲載の公式記事「世界を変えたカード」が詳しいです。ちなみに私も全く注目すらしていませんでした! 《造物の学者、ヴェンセール》にひたすら熱をあげてました!! 『モダンマスターズ(2017年版)』収録おめでとう!!!

 話がそれました。そもそもタルモゴイフとはどんな生物なのでしょうか?

公式記事「Putting the Tarmo in your Goyf」より訳

祖先であるルアゴイフ同様、タルモゴイフは極寒の世界の捕食者として恐れられています。テリジア大陸の氷河期は終わったので、タルモゴイフはいつか再び氷河期となる未来のドミナリアから来たのか、それともまた別の、ツンドラに覆われた遥か彼方の世界から来たのかは定かではありません。

タルモゴイフは極めて貪欲な獣です。ただ人を食らうのではなく――とはいえアートを見るにそれをとても好む形状の頭蓋骨をしていますが(気を付けて、ハンスとサッフィー!)。タルモゴイフは他の神秘的エネルギーも貪り、食らうごとに強くなるのです。名前の「タルモ/tarmo」はフィンランド語で「エネルギー」を意味します(カード名にスカンジナビア的な響きの言葉を使うという『アイスエイジ』の伝統に従いました)。多くの種類のエネルギーを食らうほど、タルモゴイフは強くなるのです。

 「極寒の世界」。確かに『モダンマスターズ』シリーズでのアートは寒そうです。寒い世界といえば最近ではイニストラードが思い当たりますが、もっと過酷な雪と氷の世界にいるのでしょうね。

タルモゴイフ/Tarmogoyf

画像は【公式記事「SKETCHOGOYF」】より引用しました。

 そして《タルモゴイフ》が示したとても大きな未来、プレインズウォーカー。今でこそカードタイプとしてすっかりお馴染みですが、昔は設定や物語だけの存在であり、そちらに興味のないプレイヤーは「プレインズウォーカーとは何なのか」すら知らなかったかと思います。プレインズウォーカーとは何なのか? 多くのプレイヤーが目を向けたところで、まもなくそのプレインズウォーカーは私達の前に姿を現すことになります。

 ところでこの連載では何度となく「プレインズウォーカーは異邦人、例え故郷にいても」と述べてきました。というのも私がその文言にとても感銘を受けたからなのですが。未訳の記事ですので、少し長いですが該当部分を訳して紹介させて下さい。「プレインズウォーカーは元々『未来予知』で収録される予定だったのだが、調整が間に合わず『ローウィン』へと送られた」という説明に続く内容です。

公式記事「Planeswalkers Unmasked」より抜粋・訳

 だがプレインズウォーカーを……ローウィンに? その考えは当初我々クリエイティブ・チームにとって真に奇妙なものに思えた。フェアリーやキスキンといった暢気な人々の世界に、プレインズウォーカーはとても目立つことだろう。彼らのうち4人は人間であり、ローウィンには存在しない。レオニンもだ。この魔法的強面達は、我々の作り上げた世界の素朴で牧歌的な雰囲気にそぐわないのではないだろうか。逆に言えばプレインズウォーカーは超然としていて、独特で、他の世界から来たような……

 ……ふっ。

 『ローウィン』というセットの中でプレインズウォーカーは奇妙に見えるだろう。それは悪くはないのかもしれない。当初の意図とは異なるが、実に奇妙なことに、人間のいない辺鄙で小さな世界、プレインズウォーカーの手がかりなど恐らく何もない場所は、世界を飛び周る魔術師の初演には理想的かもしれない。ああ、彼らはローウィンにそぐわない。そこが重要だ。彼らはプレインズウォーカー、どんな世界においても異邦人なのだ……生まれ故郷にいてさえも。

 だから君が次にローウィンのブースターパックを開けて、突然レアの場所にプレインズウォーカーの違和感を抱いたなら、少しの間そこにある背景設定を感じて欲しい。それはローウィンのボガートが、他の世界から来たようなリリアナにじっと見つめ返されたときとほぼ同じ感情だろうから。

 プレインズウォーカーが『ローウィン』に収録されたのは純粋に開発上の都合、ですがそれによって、「プレインズウォーカーが『ローウィン』に収録されている」ということ自体が多大なフレイバーを持つに至りました。何て素晴らしい奇跡。

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4. 未知な領域(エルドラージ覚醒のではない)

 『未来予知』のレア土地サイクル。友好色のサイクル5枚……なのですが、そのマナの出方はどれもユニークでした。何枚かについては、世界の詳細がわかっています。

地平線の梢

 この土地の次元は「パイルリー/Pyrulea」。『未来予知』で初めて登場した……のではありません。初出は1999年12月発売の小説「The Thran」でした。

小説「The Thran」P. 150より訳

ヨーグモスは自分たちが立つ隆起から見渡した。広大な雨林が全方向に広がっていた。万年樹は網のような蔓と苔を、遥か数百フィート下方の湿った下生えまで垂らし、鮮やかな色の鳥が巨大な葉から葉へと素早く飛び交っていた。森の地面では見たこともない蘭の花が木漏れ日に開いていた。

「違う世界」驚きにヨーグモスは溜息を吐いた。

それを確信したのは、見知らぬ動植物からではなかった。森そのものだった――文字通り、あらゆる方向にそれは広がっていた。北、南、東、西、風景はめくれ上がって壁となり、それらはやがて、天蓋で一つとなっていた。彼らがいるのは大地の窪みではなく、計り知れないほど巨大な球の内側だった。彼方の空に、青く霞みながらも木々の輪郭が見えていた。頭上に垂れ下がる生きたタペストリー。太陽は眩しく絶え間なく、その球状世界の中心で輝いていた。

Horizon Boughs

 ウルザとミシュラの兄弟戦争よりもさらに数千年前、古代スラン帝国の時代。まだ人間だったヨーグモスがプレインズウォーカー・Dyfedと出会って連れて来られたのがこのパイルリーでした。次元カードでは球状の「地平線」がわかります。

涙の川

 そしてこちらは「アーコス/Arkhos」。第41回で少し触れました。

公式記事「The Planes of Planechase」より抜粋・訳

 アーコスは未来予知のカード《涙の川》(同じくChris J. Anderson画)で言及されていた、夜と昼が一風変わった独特の法則で混ざり合う夢のような世界です――アートに描かれた光の繊細な美しさを見て下さい。アーコスの忘却湖近辺では、記憶は古い石造りの水路のように流れて消えてしまいます。多くの魔道士はこの湖による精神的蹂躙を回避しようとしますが、驚いたことにそれを探し求める者もいます。彼らは過去の遺物たる記憶を消し去ることで精神を解き放ち、新たな魔法的創造を行えるのだと信じているのです。

Lethe Lake

 この美しさは格別ですね……。そしてここはギリシャ神話的な次元らしいのですが、そのテーマのセットを作る時には色々な事情があって「テーロス」になったのだとか。でもこのアーコスもきちんと別に存在するらしいですよ。

偶像の石塚

 そして、レア2色土地のうち《偶像の石塚》は後に『シャドウムーア』にて「フィルターランド」のサイクルとして再録されました……が、元々のフレイバーテキストは明らかに私達が既に知る次元を指し示していました。「センギア」……これはどういうことなのか。公式記事「A Tasty Buffet of -1/-1 Counters」に説明がありました。

公式記事「A Tasty Buffet of -1/-1 Counters」より抜粋・訳

当初はカード名も「カー・センギアの石塚/ Cairns of Kar-Sengir」だった。だがデザインチームは既に先、混成テーマのセットのようなものを見据えていた。そのため彼らはフレイバー的な問題が起こらないよう、もっと一般的で再録可能な名前を求めた。すぐにでも強力な混成土地サイクルの一部として再録できるように。

我々はフレイバーテキストをそのままにして進めた、特徴的な雰囲気を感じさせると知りながらも。事実、それが重要だったのだ。ミライシフトのカードは遥か遠い未来を垣間見せてくれるもの、だからこそ、そのカードが現在よく知られた場所の一部だとわかるようなフレイバーテキストは完璧だった。

 ならば、それは例えばどんな未来? これまた公式記事「Vorthos Visits a Travel Agent」に幾つかの言及があります。抜粋して翻訳します。

公式記事「Vorthos Visits a Travel Agent」より抜粋・訳

「カー・センギア?」とは一体? あのセンギアなのか? そうだとしたら、「カー」はどういうことだ? そしてシャーマンがいると? ああ、これは本当にクールな物語を作り出してくれている。つまり平行世界のセンギア男爵は吸血鬼女王リアニス・カーと結婚し……いや待て、《センギアの吸血鬼》は怒れるプレインズウォーカー、ヴァクス・カーが好んで召喚するものだ。そして彼女はその吸血鬼らを変質させ改良し、偶像の石塚を彫り上げた哀れな弱者に崇拝を要求する新たな怪物種族にした……いや待て、カーというのは(コーとは関係ない)神秘の血筋を持つ平和的な人々だ。《センギアの吸血鬼》に噛まれても彼らは吸血鬼の奴隷アンデッドにはならず、代わりに彼らの血が変化して奇妙な力や飛行能力と筋力を得るのだ。だが同時に、彼らは暗き野心と権力への手に負えない情熱をも得る。私は間違いなくこの苦痛が刻まれた崖を訪れている。きっと、マジックもここを訪れるだろう。

 センギア。『ホームランド』の世界、ウルグローサには未だ根強いファンがいますね。比較的最近のカードでも《男爵領の吸血鬼》があります(7年前ですが……)。ああ、センギアの話が出たところで、『未来予知』の小説に驚くべき記述があったのを思い出しました。せっかくなので紹介しましょう。ニコル・ボーラスとレシュラックが様々な次元を飛びながら(リアルプレインチェイスだ!)戦う場面なのですが。

小説「Future Sight 」P. 256-257より抜粋・訳

月が現れ、眼下の谷間に黒色の巨城がそびえ立っているのが見えた。更に近づいて見ると、何千という人々が統制された編隊を成していた。血色の悪い皮膚、獰猛な様相、身に纏うものはぼろ布に等しかった。彼らはレシュラックへと顔を上げた。月が彼らの鈍い黄色の瞳と、鋭く尖った牙にきらめいた。

その吸血鬼軍は涎を垂らし見つめているだけだった。攻撃するような動きはなく、プレインズウォーカーに対しても何の反応もなく、だが指揮官へ振り返ると多くが哀れに鳴いた。黒光りする鎧をまとったその巨漢の正体はわからなかったが、戦士としての物腰は確かだった。その心はかつて高貴なものだったのかもしれない、そして戦場へと忌まわしい軍勢を率いる度に、その心の残滓が壊れていっていることも。

 「黒光りする鎧をまとった巨漢」「その心はかつて高貴なものだった」……

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5. 徹底検証! からくりに迫る!!

蒸気打ちの親分

 いやごめんそんなに迫ってない。アーティファクト関係のセットが発表されるたびに期待が高まる「からくり/Contraption」。そもそもからくりって何? 組み立てると何が起こるの?

 実のところそれすらもわかっていません。ですが、いえ、だからこそ『未来予知』で登場したメカニズムの中でもこれほど長く話題になっているものもそうありません。

 既知の次元のうち、からくりが存在しうるのはどこか。これだけは一応推測が可能です。以前、からくりがカラデシュ次元に存在しない理由をマローが述べていましたが、そこからいくつかのことがわかります。

公式記事「こぼれ話:『カラデシュ』その1」より引用

からくりについて触れたカードである《蒸気打ちの親分》は、明らかに、からくりをさらに混沌とした方向に推し進めるものだ。『カラデシュ』は、清潔で明瞭で上品な発明の世界であり、からくりがあるような世界とは雰囲気が違うのだ。

(略)

いつかからくりを登場させるときには、《蒸気打ちの親分》を再録するという計画になっている。しかし、『カラデシュ』にはゴブリンがいないのだ。

 つまり、からくりは少なくとも以下の条件を満たす次元に存在しうると考えられます。

 現在私達が知る次元でこれらに当てはまるのは……

ミラディン

ゴブリンの修繕屋スロバッドオキシダの向こう見ずピストン式大槌

 スロバッドは言わずもがな(詳しくは第17回を!)、自作のカオスな機械を振り回すゴブリンの姿が幾つも確認できます。文句なしに三つの条件全てに当てはまる……のですが、一番の問題はもはやミラディンはミラディンではないということ。一応、新ファイレクシアでも赤派閥は孤立を貫いていますし、ミラディン残党のゴブリンが起死回生の手段としてからくりを開発し……とかないですかね。

フィオーラ

巧妙な偶像破壊者、ダレッティ歯車式司書囁く歯車の隠密

 個人的に見た目が最も「からくり」然としているアーティファクトはフィオーラ産のものだと思います。アカデミーで開発された歯車式装置はかつてパリアノの街のそこかしこで働いていたのですが、『コンスピラシー:王位争奪』では違法なものとして追放されてしまいました。とはいえダレッティの特製車椅子に今もその技術を見ることができます。

ラヴニカ

イズマグナスのミジックスゴブリンの試験操縦士

 技術の発達も混沌具合も随一、ただラヴニカはどうしても「多色世界」なのであまりアーティファクト感はないんですよね。それにこの世界で技術系ゴブリンというとどうしてもイゼットであり、からくりの方向性とは少し異なる気がします。全くの余談ですが先日『霊気紛争』に伴うオラクル変更で《ゴブリンの試験操縦士》のクリーチャー・タイプに「操縦士」が追加されたそうですよ。

ドミナリア

ゴブリンの溶接工狭い空間

 主に遠い昔、ウルザブロックの頃になりますがドミナリアのゴブリンもアーティファクトを扱っていました。リリアナ絡みでその名前こそ出るものの、長いこと帰っていない次元です。

 以上の4つです。何か忘れていたらごめんなさい。

 マローは自身の記事にて「引退前にはからくりを登場させる」と繰り返し述べています。それは10年後か20年後か、そしてその頃のマジックはどうなっているのでしょうか……ああ何てことだ、《蒸気打ちの親分》は他のどれよりも未来に想いを馳せずにいられないカードだったというのか。

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6. エンディングの先に

 『未来予知』の発売は2007年。冒頭に書いたようにマジックが始まったのが1993年ですので、この時点で14年。14年間積み上げてきた物語の未来を見せてくれたカードもまた存在しました。

新ベナリアトレイリア西部ダクムーアの回収場
ケルドの巨石ラノワールの再生地

 こちらのアンコモン単色土地サイクル。ベナリア、トレイリア、ダクムーア、ケルド、ラノワール。これらは全てドミナリア、各色のマナで有名な土地のものです。この中ですとダクムーアだけ少し知名度が低いでしょうか?

 登場は『ポータル・セカンドエイジ』。カードとしては《ダクムーアの女魔術師》が有名かと思います、なかなかの美女と昔から評判。

 繰り返しますが、ドミナリアは度重なる次元規模の災害によって荒廃しきっていました。中でもベナリアとラノワールは、ファイレクシアによる侵略の際に壊滅的な被害を受けました。当時のカードにもその様子が描かれています。

世界の荒廃疫病の胞子

《世界の荒廃》フレイバーテキスト

地が揺れ、空から火が降り注いだ。この世の終わりとしか思えなかった。

――― ベナリアの難民

《疫病の胞子》フレイバーテキスト

さあ、大きく息を吸って、ドミナリアよ。大きく息を吸って、そして死ぬんだ。

――― ファイレクシアの将軍サーボ・タヴォーク

 それが『未来予知』では、これらアンモコン土地のカード名が示すように復興への道を着実に歩んでいます。この連載的には何といっても《トレイリア西部》。あの《抹消》の物語の、結末の更に先がここにあります。『エターナルマスターズ』時の公式記事によれば、ここに設立された新たなアカデミーは魔術の学府として知れ渡っているようですね。青い空と海、そしてラストシーンは苦難の過去を全く感じさせないほどに明るく爽やかです。

 ところで話は変わりますが、第39回でこんなことを書いていました。

 

愛し合う二人が悲劇の結末を迎えるというのは過去の物語にも割とありました。いずれ書くと思いますが特にウェザーライト・サーガ内にはたくさんありました。むしろ無事にエンディングを迎えた恋人同士の何と少ないことか。

 古くからマジックの物語を追っていると「恋愛フラグ」は「死亡フラグ」に見えてしまいます。「無事にエンディングを迎えた恋人同士」は本当に稀です。あの長く、キャラクターの数も膨大なウェザーライト・サーガにおいてもそれは例外なく、いやむしろウェザーライト・サーガによってこの「恋愛フラグ=死亡フラグ」が決定的なものになったのだろうか。ジェラードとハナは両方死にましたし、『プレーンシフト』で恋仲になったエラダムリーとリン・シヴィーもですし、セレニアとクロウヴァクスは言わずもがな、『ネメシス』で破滅の恋を経験したアーテイも、ジェラードへの想いを秘めたまま逝ったミリーも……書いててだんだん絶望してきた。

 だからこそ、10年経った今でも忘れません。《サマイトの守護者オリス》を初めて見たときは、驚きとか感動とかを突き抜けて爆笑しました。そのマナコストは、P/Tは、能力は、見間違いようもないあの2人のものじゃないか……!

サマイトの守護者オリス
革命家チョー=マノサマイトの癒し手オアリムオアリムの詠唱

 ウェザーライト・サーガの一幕、『メルカディアン・マスクス』。『エクソダス』でラースを脱出したウェザーライト号が辿り着いた次元メルカディアでの冒険物語です。超ざっくり話しますと、乗組員の一人、船医のオアリムは現地政府と戦う反乱軍の長チョー=マノと恋に落ち、ですがドミナリアに迫るファイレクシアの侵略を前に、再会を約束して2人は別れます。オアリムは死亡者続出の『インベイジョン』『プレーンシフト』『アポカリプス』を生き延び、エンディングにてプレインズウォーカーとなったカーンに連れられてめでたく嫁いでいったのでした。

 そしてこれは2017年の今でさえ「マジックの物語でハッピーエンドを迎えた恋人同士」の稀な例として語り継がれています。『メルカディアン・マスクス』の物語自体、冒険あり謎ありバトルあり陰謀ありロマンスありで私は大のお気に入り。で、まあハッピーエンドは迎えたけどその後もあの2人は幸せに過ごせたのかねえ、メルカディアについては音沙汰ないし……と長いこと思っていたのですよ。そこに、どう見ても2人の血筋を受け継ぐカードが来た! もうどれだけ嬉しかったことか!!

 『未来予知』には「壮大」持ちの伝説クリーチャー・サイクルが存在します。これは「過去の伝説クリーチャーの子孫/後継者」。それぞれが名前や外見、アイテムで「元となった伝説クリーチャー」がわかります。例えばこちら。

クローサの拳カマールクローサの拳バルー

 緑のバルー。『時のらせん』ブロックにはカマールの教えを受け継ぐ「カマール教」の存在が幾つかのフレイバーテキストに確認できますので、彼はカマールの子孫もしくはその教えを受け継ぐ者なのだろうとわかります。これも一つの「未来」の形。一方オリスは各種資料(ファットパック付属小冊子、公式記事)にて「娘」と明言されていました。だよなあ、マナコストとP/Tと「壮大」能力はお母さんで、軽減能力はお父さんだ。いやあ、私はずっと貴女に会いたかったんだ……でも、つまりオリスは時間軸的に『未来予知』の物語よりはずっと過去のキャラクターって事になるのよね。ちょっと不思議な存在。

 長々語りましたが、つまりは「ひたすら嬉しかった」という事を理解して頂けましたでしょうか。また余談ですが、『未来予知』の次のセットである『基本セット第10版』に《革命家チョー=マノ》が再録されたのでスタンで父娘共演ができたのでした。当時嬉しくて白単デッキを組みましたが特にシナジーとかはなかった。ひたすら固かったけど。

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7. 宣伝です

 以上、かなりとりとめもなく『未来予知』のカードやその背景について書きました。メインストーリーまで扱えなかったどうしよう。大修復10周年ってことで改めて取り上げる? 『アモンケット』の進行状況によりますかね。

 その『アモンケット』までしばし「Magic Story」は休止中なのですが、只今マジック:ザ・ギャザリング日本公式ウェブサイトにて短期集中連載「ゲートウォッチの歩み」を書かせていただいております。現在、第3回まで掲載されています。

 「わかりやすさ」を第一に、ゲートウォッチという組織の説明とメンバーそれぞれの物語を辿っています。こちらも読んで頂ければ幸いです。

 それではまた次回。

(終)

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※今回の内容につきましては、主にこちらの記事を参考にさせていただきました。

Vorthos Visits a Travel Agent

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/vorthos-visits-travel-agent-2007-05-03

Grandeur, No Illusion

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/latest-developments/grandeur-no-illusion-2007-04-13-0
http://web.archive.org/web/20090227015454/http://mtg.takaratomy.co.jp/others/column/yonemura/20070418fut/index.html

Magic, Now With G5-27 Attachment!

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/magic-now-g5-27-attachment-2007-04-30

Back to the Future Sight

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/back-future-sight-2007-04-09
http://web.archive.org/web/20090227015444/http://mtg.takaratomy.co.jp/others/column/yonemura/20070412fut/index.html

The Future Is Now, Part I

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/future-now-part-i-2007-04-09

The Future Is Now, Part II

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/future-now-part-ii-2007-04-16

The Future Is Now, Part III

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/future-now-part-iii-2007-04-23

Finale!

http://magic.wizards.com/en/articles/archive/finale-2007-05-10

この記事内で掲載されたカード


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